2016年4月7日木曜日

歳月(明治維新と江藤新平)について


古書展で見つけ一気に読んだ本に司馬遼太郎の「歳月」(講談社文庫:昭和49年第13刷発行)がある。司馬遼太郎の名前に惹かれて偶然手にしたこの本は、書名が平凡すぎ、一見して何の小説かわからない本であったが、700頁にも上る歴史半ドキュメンタリー小説であった。
これは、佐賀藩の下級武士であった江藤新平が、35歳で突如明治維新の歴史の舞台に現れ、わずか五年目の三十九歳で維新政府の司法卿(今でゆう法務大臣)に任ぜられ、佐賀の乱に捲き込まれ、四十一歳で梟首刑に処せられるまでの物語である。
今まで、維新をテーマにした多くが、明治維新までの物語が殆どであつたが「八重の桜」や「花燃ゆ」など、最近のドラマがようやく明治維新後に焦点を当て始めた。江藤新平を扱ったこの「歳月」は、維新政府の誕生とその後の士族の反乱という革命政権の誕生と混乱の歴史を見事に描いた作品である。
江戸城開城の際、薩長の人間達が、武器と財宝の確認に走る中で、一人江藤新のみが江戸幕府の書庫に入り行政上の書類の分析から幕府の財政状況の分析に着手し、当時の日本の財政規模が5000万石でその大半が武士給料として支出されていたことを把握した等の話は、その後の廃藩置県や士族反乱を理解する上での興味深いエピーソードであり、各所に今まであまり知られなかった史実も示されており、歴史書としても興味深い。
歴史を見る場合、マクロの視点とミクロの視点のどちらに偏りがちであるが、これは、個人が見える形で対局的な歴史をみるという司馬遼太郎の歴史観が見事に表現された小説である。また、無名の下級武士が、一躍時代の先端にどのようにして踊り出て、どのように躓いたかの人間ドラマとしても面白く考えさせられる一冊である。


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