1.はじめに
Eureka (レーカ)とは、古代ギリシャ語で「私は見つけた」「分かったぞ」という意味を持つ感嘆詞だ。
「科学的なファクトと予言的なビィジヨンが混じり合った魅力的なロマンス」、これをサイエンティフィクション(SF)となづけたのは、ルクセンブルク系アメリカ人の発明家、作家、編集者、雑誌発行者で今もヒューゴー賞に名前を残すヒューゴー・ガンズバックであった。
アーサー・クラークが1951年に発表した短編小説『前哨(原題:The Sentinel)をベースに2001年宇宙への旅を書いて映画化したのは、1968年のことだった。
そして今2026年7月、あれから60年近くなる。この間、月着陸は現実のこととなり、インターネットにみられる通信技術の発展があり1990年4月24日ハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられ、2021年にはその後継機のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が打ち上げられ、素粒子物理学の標準モデルが完成したが、量子重力理論はいまだ未完成のままである。しかし、AI革命は一般の人の予測を超えて進行中であり、量子コンピュータの開発も進みつつあり、夢の核融合も実現間近になりつつある。
こんな時代にSFはもはやはやらないのでは、そんな気になっていた時中国のSF作家
劉慈欣が「三体」と云うSFを発表して話題になったので4冊もの長編であったが、思わず
「創世記機械:ジェイムズ・P・ホーガン:山高昭:創元SF文庫:1981年初版、1991年15版」
まず、表紙に魅かれた。そして著者がジェイムズ・P・ホーガンと確認するや迷わず
購入を決めた。そして読んだ期待通り面白かった。以下はその紹介である。
2.ジェイムズ・P・ホーガンと私
著者のジェイムズ・P・ホーガン(1941-2010年)はイギリス出身のSF作家だ。電子工学技術者やコンピュータの営業職を経て、1977年に『星を継ぐもの』でデビュー。以後、厳密な科学知識と論理的な謎解きを融合させたハードSFの巨匠として知られている。その作品の一つである。「未来の二つの顔」は、10年ほど前、今日話題となっているAIと人間の対立と和解を描いた作品で私に大きな感動をもたらした。この内容については、私が75歳を記念して発行した小冊子「SFに連なる未来」でも取り上げた。今回、改めて彼の主要作品を眺めてみると次のようになる。
1977年:星を継ぐもの(Inherit
the Stars)
1978年:ガニメデの優しい巨人(The Gentle Giants of Ganymede)
1978年:創世紀機械(The Genesis Machine)
1979年:未来の二つの顔(The
Two Faces of Tomorrow)
1980年:未来からのホットライン(Thrice
Upon a Time)
1981年:巨人たちの星(Giants'
Star)
1982年:断絶への航海(Voyage of Discovery)
1983年:揺籃の星(Code of
the Maker)
1984年:プロテウスの操作(The
Proteus Operation)
1991年:内なる宇宙(Entoverse)
2005年:ミネルヴァ計画(Mission
to Minerva)
2005年:造物主の選択(The
Multiplex Man / 日本語訳は東京創元社より)
こうして眺めてみて僕は、彼の初期の作品4冊をすべて読んだことになり、創世紀機械(The Genesis Machine)はその最後の一冊であると初めて気づいた。
3. 創世紀機械(The Genesis Machine)の内容
統一場理論を解き明かした若き天才科学者と、それを軍事利用しようとする国家との対立を描き、星雲賞を受賞した作品だ。作中の統一場理論では、私たちの世界を高次元空間の一部として捉える設定が登場する。我々の住む4次元宇宙と高次元宇宙の関係が精緻に語られ、その過程で重力の発生の仕組みや我々の住む宇宙と高次元宇宙関係が示されその技術的応用への展望が語られる。物語は、研究組織の官僚主義や国家権力の政治的圧力に立ち向かう真面目な研究者達の連携がやがて世界を核戦争の破壊から救う究極の兵器の開発と誕生につながり、世界の軍拡競争を終結させる。
現代物理学の最先端である「超弦理論(超ひも理論)」では、宇宙は10次元とされており、我々がいる世界は、10次元宇宙に漂う4次元の影(ホログラム)のようなものと考えられているが1970年代後半の時点で、この次元の概念を取り込んでいることは驚異的だ。
量子重力理論がいまだに完成していない現在、これが完成したあかつきにどんなことが可能になるかを予感させるワクワク感が止まらない。この中でもう一つ驚かされる技術が「生体用相互作用コンピュータ」と言われる機械で、これは人間の脳波その他五感情報をコンピュータに伝えると同時にもコンピュータの情報を直接人間の脳等に伝達する双方向のコミュニケーションツール(BIAC)と云う今でも実現しそうな機械が登場することである。
また、高次元空間はアインシュタインの相対性原理の影響を受けないので、この空間を利用すれば、瞬時の宇宙旅行が実現する。物語のエピローグで
、ある家族が、シリウス・ケンタリアス系の惑星ミランダへの移住のため、高次空間を飛行するフリップス駆動の宇宙船で、8.7光年を瞬時に移動する話で幕が閉じる。
読後の感想
究極兵器の開発が核戦争無き世界を実現する。これは、米ソ冷戦時代を経験した我々世代の少年時代の夢であったが、何故か今日でも通用しそうなロマンあふれる夢である。
おもえば、私が科学にあこがれ、理学部を目指した背景には、中学3年から高校時代、おふくろが受験勉強のため、近くの一人暮らしの老婆の住む家の一間を借りてくれ、一人部屋暮らしを始めた。その頃、たまたま夕食に戻っていた時、テレビでウエールズのSFをベースにした「来るべき未来の物語」という映画をみたことと関係している。それは、科学者が、最新科学の力で野蛮な戦争を終息させ、人類の新しい時代をもたらす物語であった。米ソの冷戦下で、核戦争の脅威と人類絶滅の予感が世界を覆っていた時代、それは私にとって素晴らしい希望の物語であった。それは、その当時の青春ドラマ石原慎太郎の「青年の樹」と共に、私の青春の夢の一部になった。
2001年宇宙への旅を描いたアーサー・クラーク(1917〜2008)はジェイムズ・P・ホーガン(1941-2010年)の2年前に、最後の作品「最終定理」を残してこの世を去った。クラーク、ホーガン二人の巨匠が去ったSF界にまだ、新星は現れていない。当分はこの二人が人類に希望の光を投げかけるしかない。その彼らの晩年の作品を私はまだ読んでいない。楽しみはまだ、残っている、そんなことに気ずかされた1冊であった。(了)

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