2022年2月8日火曜日

SFが導く未来の科学・技術と世界ー「メタバース」と「スノウ・クラッシュ」によせて

最近新聞や雑誌で頻繁に目にするメタバース、その言葉が初めて使われた1992年に発行されたSF「スノウ・クラッシュ」。今や世界を席巻したIT企業の創業者の多くがSF小説に影響を受けたり愛読したりしている。その中でも特に名を上げられる頻度が高いのがこの「スノウ・クラッシュ」の作者である。2022125日新版として再発行された上下2巻からなる本を発行と同時に入手し、読んでみた。「スノウ・クラッシュ」、そこでどんな世界観が展開されているのか期待に胸を膨らませながら・・・ 

20代からのSFファンである私にとって、ずっと捨てられぬ蔵書がSF関連の本であった。それは、未来に対して新しい世界や希望を示す指標であったためである。

その私が-これが究極のSFではないかと感じいったのは、ウエルズの「タイムマシン」の刊行100周年に合わせて1995年、イギリスのハーバー・コリンズUK社から発行された。スティーブ・バクスターの「タイムシップ」であった。相対性理論に加え現代の量子論やマルチユニバース論まで視野に入れ、遥かなる未来まで旅するこの小説に時空の果てをみた思いであった。

 しかし、その私に、未来の別の可能性の扉への予感が襲ってきたのは、むしろ急激に進む

科学・技術の現実であった。その代表的なものは、SNSに象徴される通信関連技術の発展であり、ディープラニングと云うブレイクスルーにより出現したAIの進歩と普及であるし、生科学分野でのゲノム解析の進歩とその改変ブレイクスルー技術クリスパーキヤス9の出現と人工加工生物の誕生である。

しかし、その私に、未来の別の可能性の扉への予感が襲ってきたのは、むしろ急激に進む科学・技術の現実であった。

その代表的なものは、SNSに象徴される通信関連技術の発展であり、ディープラニングと云うブレイクスルーにより出現したAIの進歩と普及であるし、生科学分野でのゲノム解析の進歩とその改変ブレイクスルー技術クリスパーキヤス9の出現と人工加工生物の誕生である。

 さらに最新生科学による脳科学の発展は、人間の意識構造や幸不幸等の人間の行動パターンや心理思想まで解明しようとしている。つまり1000憶の神経細胞は各々の神経細胞がもつ10000ものシナップスを介して壮大なネットワークを構築して意識世界を形成している。つまり、人間そのものが一つの小宇宙であることがはっきりしてきた。

そんな時、大学生の若者とのふとした会話から手にしたのが、メタバースの誕生のきっかけとなったSF「スノウ・クラッシュ」である。

この本は、すでに1992年に出版されていていたのであるが、昨今のメタバースブームの中で、新版として早川文庫から2022125日発行された。著者は、1959年米国生まれのニール・タウン・スティーブンソン。ボストン大学で、物理学と地理学を学んだ作家で、これは、33歳の時の作品である。物理出の私と同様、社会で実務につくのに苦労して作家になっただけに波長が合った。

ちなみに、メタバース(metaverse)とは、英語の「meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせたてこの著者によってつくられた造語である。

「スノウ・クラッシュ」の舞台は、フランチャイズ都市国家のパッチワークみたいになってしまったアメリカ合掌国の近未来、そこでは、バアーチャルとリアルが溶けあう社会となっている。そこでメタバースと云う巨大VR,ネットと現実世界を行き来する人達の物語が展開される。多分著者の意図とは別にこの作品が最近になって注目されるようになったのは、メタバースを構成するコードやルール、アバターのスペック等が詳細に語られている点であるかもしれない。

現在のメタバースブームを知る人間から見れば、この世界が30年前に30歳を少し超えたばかりの若者によって構築されたことに驚きを禁じ得ない。

しかし、この著者にとってメタバースそのものは、物語の背景でしかない。物語の主題は、メタバースとリアル世界の根底に横たわる人間の脳や無意識を含めた意識構造との関係で、これは文明の発生や宗教とも関係する領域である。

ここに、見える世界と見えない世界とを仲介するバーチャルの世界の意義がある。

人類は、有史以来の長い間、見えない世界と見える世界を一体のものとして生活してきたが、近代は、この見えない世界を虚妄として退けて来た。目に見える科学的、合理的、理性的なものが全てであるとの思想潮流が文明の主体となった。この流れのアンチテーゼとして起こったのがロマン主義であり、シュールリアリズム運動であり、フロイドの精神分析に代表される無意識の世界の発見であった。

 こうした科学と宗教に代表される目に見える世界と見えない世界の哲学的・思想的対立や境界は、最近の脳科学や神経科学、心理学の発展により、急速に溶解しようとしている。

バーチャルとリアルを仲介するメタバースは、間違いなく、心の中の新大陸発見であり、人間世界の宇宙構造を内側から拡大しようとしている。経済学者は、資本主義のフロンテイアは消滅したと云うが、ここには無限の可能性とフロンティアがある。

 今後の社会や文明の動向を考えるためにメタバースからは、目が離せない。




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