2021年11月16日火曜日

姿なき黒船との戦い ―「膨張GAFAとの闘い」を読んでー

 

書店で何気なく手にとった一冊の本、それが中央公論新書(2021610日発行)のこの本である。著者は、読売新聞の女性記者若江雅子氏。久々に熱い思いに満ちた本にであった。これは、自省と使命感に駆られて書かれた本のように思われる。


2020年以来日本社会は、新型コロナと云う見えない存在との闘いに翻弄され続けている。

しかし、その10年以上も前から、日本社会は、グローバル化の波に乗って密に押し寄せてきた通信技術革新とりわけGAFAに象徴されるIT企業の進出・侵略に直面していた。

けれど、その巨大な波は、2011年の3.11のように、目に見えるもものではなく、一部を除いてほとんどの人が意識することはなかった。この波が、日本の社会のビジネス、知的環境、生活環境を根本的に変えつつあることを我々が意識するようになったのは、皮肉なことにリモートが日常化した今回のコロナ下でのことであった。

 私にとってのIT技術は、主にビジネス環境の側面からの興味の対象であり、それが、現実の我々の生活基盤に直接かかわるとは、あまり意識してこなかった。これらの技術が日常生活と直結している予感はあった。それに注意が行くようになったのは、2016年欧州委員会が、「一般データ保護規則(GDPR)」を制定し、20185月にその運用が開始されると云う事態を受けて328日に出た日経新聞の一本の記事であった。しかしその時の受け止め方は、その企業活動への影響といった側面からしか見ていなかった。生活の中に急速に浸透IT技術の実態がよく見えていなかったためであった。

 2010年当時「無償で提供されるサービスの収益源は、どこから生まれるのか」この疑問を持ちつつその利用の魅力にひきつけられ、そのからくりまで、注意が及ばなかった。今では、その収益源は「サービス提供と引き換えに収集するユーザー情報の収集であり」、そこにプライバシー侵害の可能性があることはあまり意識されていなかった。

 この無償のプラットホームを土台とするビジネスモデルが、GAFAの急成長の原動力であるが、それまでにないこの新たなビジネスモデルに対して、日本社会は、それを規制する法体系が未整備のままであった。すなわち、目に見えるハードや物を中心とする法体系では、

海外に拠点を置くソフト中心の業態に対応できないと云うみとであった。その象徴が個人情報保護法で、個人情報を名前、住所、電話番号しいった狭い直接情報に限定いた法律は、IT時代には、時代遅れになっていたし、物品の売買を想定した独占禁止法も非対称取引の

ビジネスモデルには対応できなくなっていた。さらに、ハード機器を国内に設置しない通信

事業者への国内法の適用が出来ない等の問題もあった。

 つまり、実生活に急速に浸透しつつあるあらたな技術による生活環境の変化に日本人の意識や法体系が全く追いついて行けない事態がいたるところで発生しつつあった。

 本書は、こうした事態に危機感を抱いた政府や民間の人達が日本の法整備に尽力した

コロナ後も見据えた奮闘の記録である。

 「データ時代の大きな社会構造の変化」それは、今我々の生活のあらゆる分野に及んでいる。しかし、このことを自覚している人はまだ少数である。メディアや政治は、相変わらず

スキャンダルを追いかつづけている。こうした中、ここ数年で、日本の科学技術の衰退

が、目に見える形で明らかになりつつある。この20年間日本は、平成の太平の夢をむさぼって眠っていたように思う。黒船の来航は、明治維新を引き起こした。GAFAの来航の実体に目覚めて、日本は、新たな令和の改革で再生できるであろうか。

 文系ジャーナリズムへの期待をほとんどなくしかけていた私にとって、初めてまともな

ジャーナリストの書いた本に出合った思いである。

 

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