書店で、全く偶然に手にした本がこの本だった。しかし今から思えば全くの偶然とは云えないかもしれない。趣味にしていた古書展がコロナのせいで中止に追い込まれて以来、私の本の探索場所は、もっぱら栄のジャンク堂になり、月に数回訪れるようになった。
そんなとき、東洋関係の本に飽きてきた私は、洋書のコーナーに目を向けるようになっていた。そこで、SFとも怪奇小説とも見分けのつかない黒表紙の本に出合った。それがラグクラフト全集であった。この一冊を試しに目を通してみて、アメリカ文学もまんざら悪くないと思いだした。
そのコーナーで偶然見つけたのが、ポール・オースターという見慣れぬ作家のムーン・パレスと云う作品だった。裏表紙の最初の行に「人類が初めて月を歩いた夏だった」とあった。こけがこの小説の書き出しだった。作者は、1947年生まれ、自分とさして年齢が違わない。日本のあの安保闘争以後の混沌とした時代、アメリカの大学に通っていた青年の物語であり、同じ時代の空気に魅かれて思わず買い求めた。
中学生の時、アラン・フルニエの「モーヌの大将」を読んだが、あれはフランスの田舎町を舞台とする青春小説だった。このムーン・プレスは、ニューョーク州のコロンビア大学周辺の街を舞台とする青春小説である。
「モーヌの大将」が10代前半の思春期の少年を主人公とするものであるのに対して、これは大学時代という青春の真っただ中の物語であり、混迷の時代から目覚め立ち上がってゆく一人の青年を主人公としている。自分の青春期の思い出とも重なるので、思わず読んでしまった。
これは、ある意味での自分探しの物語であるが、その背景にアメリカの画家ブレイク・ロックの「月光」をテーマとした世界がある。ブレイク・ロックの世界は、私の好きなドイツロマン派の画家ガスパー・デイビッド・フレディドリッヒの世界と似ている。
この絵を手掛かりにあのエドガー・アラン・ポーに源流を持つアメリカロマン主義の流れ
をたどることが出来るのではないか。あらたな出会いを予感させてくれる本であった。
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