トッドは、歴史人口学の立場からヨーロッパ社会の変動を分析し、ソ連邦の崩壊を予側し、EU内部における右派の台頭を予側している。
彼は、ヨーロッパの社会内部では、宗教、家族制度、土地制度、相続制度が社会変動を特長づける要因であるとして、様々な分析を行っている。
この歴史人口学とは如何なるもので、日本の研究の現状は、どうなっているかという問題意識をもっていたところ出会ったのが、この本である。
人口問題を歴史的に正面から取り上げた本が極めて少ないので、興味深く最後まで読み通すことが出来た。
これによれば、日本列島の人口は、過去1万年間に4回の成長と停滞を繰り返してきたと云われる。そり第一は、狩猟、漁労、採取を中心とする自然環境依存の縄文文化のシステムの温暖化と寒冷化による人口増と人口減である。第二は、第一の限界を打ち破る稲作農業システムの拡大とその結果生み出された荘園システムの行き詰まりから来る戦乱と気候変動の影響による人口増と人口減である。第三は、平和な江戸時代の到来と市場経済の展開と高度有機経済システムの実現と文明の成熟化による人口増と人口減である。第四は、工業化による化石燃料依存の工業文明システムの誕生と成熟に伴う人口減である。
こうした観点からは、人口増は、新しい社会システムの誕生によってもたらされ、その成熟によって停滞又は人口減となる。こうした視点は、極めて地味な実証的研究の積み重ねによって得られたもので、マルクス主義の原理から演繹的に導かれたものでない点が興味深い。この観点に立てば、この後は、化石燃料依存から脱した新しい新文明システムの誕生が求められることになる。
つまり、世界的には、工業文明依存システムが、開発途上国を中心として人口増をもたらす一方で、先進国では、その成熟による人口停滞又は人口減少が生じており、その結果としての全体としての人口増は、開発途上国の工業文明の成熟によって、人口減に転ずる
が、その前に、それが、再生できないまでの破棄的な環境破壊をもたらか、人々の破局逃れの予防行動によって回避できるのかが問題となる。
また、工業文明の行き詰まりから脱するためには、地球外への人口の移動や(例えば長寿・小人口・安定で精神成長を基本とするといった)脱化石エネルギーの情報・文化中心の新しい文明の勃興が必要であるが、その可能性や展望はまだ見えてこない。
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