2019年1月29日火曜日

養老猛司「バカの壁」についての感想


名前は、出版当時から知っていたが、宣伝されている本には、一過性の本が多いという理由で手に取る気になれなかった本であるが、古書展で三冊100円コーナーで新品のような本であったので、とりあえず購入してみた。2003年の出版で15刷というからよほど売れた本である。1937年生れの医学部出で、解剖学者の著者が66歳にして出した本である。
内容は、人間の脳の働きから見て「わかるとはどういうことか」をテーマにしたものであった。自分にとって目新しいことは、一切なかったが、日頃考えていることと全く同じことが書いてあったので、自分の考えを整理する意味で、読みやすく、最期まで読むのにあまり抵抗はなかった。
その基礎に、我々を取り巻く世界と言語についてソシュールの言語学のベースやフロイドの発見した無意識の領域についての知識があり、経済についても岩井克人さんの「貨幣論」を読んでいること。また、身体論についても一通りの知識と見識があることを垣間見ることができ、好感がもてた。とくに「原理主義」や何の疑問もなく「正義」を振りかざす人達への批判的な視点は全く同感できた。
 しかし、この本が、ある種のベストセラーのように売れながら、著者の思いが、どれだけ世間に伝わったかについては、はなはだ疑問である。というのは、言語論、脳科学、経済学、身体論、宗教論とその話しぶりの根底にある科学的・文化的な基礎知識は、現代では、細分化した知識として日々展開されてきているためで、多くの読者には、その偏在がいわゆる「バカの壁」として存在していると思われるためである。
多分多くの読者は、この本の中に自分の理解できる点を見つけて共感しただけかも知れない。しかし、それにもかかわらず、この本に価値があるとすれば、現代の科学的・文化的な基礎知識を一つの全体知として日常的な判断基準のレベルまで展開して示した点にある。私自身にとっては「バカの壁」は、他者と対話する上での基本的な姿勢をあらためて
考えさせられた本となった。 完

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