ソ連邦崩壊の1989年までの日本の近代史の多くは、マルクス主義的な観点から
書かれたたものが、殆どであり、それ以外は、一般には、右翼的な本として左翼陣営
からはタブー視されてきた。夥しい数の左翼的歴史書は、ソ連邦崩壊と共にこの世から
消失したかに見える。これは、それまで戦後左翼の思想を陰で支えてきた社会主義を正義とする論理構成が出来なくなったためである。
第二次世界大戦をソ連邦の崩壊という事実を正面から受け止めた上で、今日改めて
捉えなおすととどうなるであろうか。これは、安保闘争世代にとっての深刻な課題であるが、もはやこの世代は、老いさらばえてその課題に立ち向かう真摯な心も気力も無くし、
憲法9条だけを思想の支えとして、1960年代の戦後思想を反芻しているだけのように思える。
その中で、ソ連邦の崩壊という事実を見据えた上で、日本にとっての第二次世界対戦
(大東亜戦争又は太平洋戦争)を考えようとした数少ない本に出会った。
河原宏の「日本人の戦争」:講談社学術文庫:2012年10月10日発行 である。
残念ながら、河原氏は、2012年2月この出版を待たずに逝去されていた。
この本の初版本は1995年3月に発表されており、この新装版も2008年7月に発表
されていたが、仕事に追われていたその頃の私の目にに入らなかった。
今回あらためて読んで、氏の古典の造詣の深さを裏打ちされた感性と思想性に関心した。1928年生れであるから、この作品を書かれた年齢は、67歳であり、84歳で亡くなられたことになるが、西欧のイデオロギー(氏は、抽象化という)に毒されることのない眼差しに好感を覚えた。残念な人を無くしたものである。
この本は、平和と憲法9条しか知らない安保世代の老齢化した保守的旧左翼の人々にらも
是非読ませたい本である。