2023年4月3日月曜日

一冊の本への共感と違和感―AIとシンギュラリティをめぐってー

 

1.はじめ

一書店で偶然手にした一冊の本が、この20年間私が気にかけていたテーマである「人工知能と意識」について考えをまとめるきっかけとなった。その本が「虚妄のAI神話―シンギュラリティを葬り去る:ジャン=ガブリエル・ガナシャ早川書房:20197月発行」である。著者は、フランスの哲学者でソルボンヌ大学コンピュータ・サイエンス教授。認知モデルや機械学習等人工知能(AI)の研究者で小説も書いている

最近の技術の加速度的進歩により、画像生成ソフトMidjourneyやチャットGPTの出現等生成AIの急進に象徴される事件、すなわち従来不可能とされていた画像作成、作曲、文章作成等人間の創作活動領域にまで、AIが進出する事態の中で、哲学者や思想家が、茫然自失してこの分野への包括的展望を開けないことに不満と焦りに似た感情を抱いていた私にとってこの本は、天空から降りて来た暗闇の中の一条の光のようにも思えた。

2.シンギュラリティ問題の概要と背景

この本のテーマであるシンギュラリティとは、未来のある時点で、コンピュータ技術の指数関数的な進歩が爆発的発展をもたらし、それよりより先は予測できなくなると云う仮説で、この時点を計算不可能なこと示す数学的表現の特異点(Singularity)で表したもので技術的特異点と称されている。

 コンビュータ技術の発展の先の見通しに最初に言及したのは、イギリスの数学者IJグッドで、彼は1965年すでにコンピュータ技術がこのまま進歩してゆけば機械の知能が自己を規定するプログラムを改良するようになり、そうなれば、機械の知能は、指数関数的に増大すると論じた。

シンギュラリティと云う言葉を初めて使ったのは、元サンディエゴ大学の教授で数学者でSF作家でもあるヴァーナー・ヴィジン。彼が1993年「来たるべき技術的特異点:ポストヒューマン時代をどう生き延びるか」と云う論文を発表し、人間より優れたコンピュータが現れる時期を特異点と命名した。

それ以来徐々にこの言葉と概念が欧米の数学・物理等の科学者やコンピュータ関連の技術者を中心に広がり、多くの研究者や技術者がこの問題に取り組み、発言するようになった。特にその中心にいるのは、アメリカの早熟の天才的コンビュータ研究者、グーグルの機械学習と自然言語処理の技術責任者で、1948年生まれのカーツワイルである。

ヴァーナー・ヴィジンは、前述の論文でシンギュラリティの到来を30年後(2023)と予測していたが。この予測ははずれそうである。1965年にインテル社の創業者の一人でもあるG・ムーアは「集積回路上のトランジェスタの数は、18カ月ごとに2倍になっており今後もそのベースで増え続けると云う将来予測「ムーアの法則」を発表した。(ムーア2023324日死亡)

カーツワイルは、この法則をもとにコンピュータの技術発展を予測し2005に出版した『シンギュラリティは近い』という本で発表し、2030年代にはコンピュータの計算能力が人類の生物学的な知能の総容量に等しい量に達すると主張した。 そして、2045年には1000ドルのコンピュータの計算能力が、10ペタフロップスの人類の脳の100億倍になると予測しており、この時、コンピュータの知能が、人類全体の知能を上回ると予想されると云う。これが2045年問題と云われる。この本は世界的なベストセラーとなり、カーツワイル氏の名声を高めたと云われる。ちなみに、「ムーアの法則」はその後も破られていない。また2010年代にニューラルネットワークの一手法であるデープラニングがブレイクスルーとも云える成功をおさめ、AIと云う言葉が一気に普及し始めた

そして2014、ブラックホールや宇宙の起源、時間に関する研究で有名なイギリスの宇宙物理学者スティーヴン・ホーキング(20183月没)が、イギリスの新聞(インディペンデント)に、人工知能(AI)のもたらす不可逆的結果についての警告の声明文を発表した。 

「技術は、瞬く間に発展し、すぐに制御不能となって人類を危機的状況にさらすだろう。だが、いまなら止められる。明日ではもう遅いのだ。」と。

この懸念に著名な顔ぶれの科学者達が同調し、イーロン・マスクビル・ゲイツ等の実業家も危惧を表明するに至って、人類的課題として、欧米を中心に広く議論されるようになってきたが、日本では、一部SFマニアのマイナーな関心事としてしか扱われてこなかった。

3.「虚妄のAI神話」の意義と違和感

 「虚妄のAI神話」は、このテーマを包括的・思想的に取り扱った初めての本である。しかし、読み進んでゆくにつれて、ある種の違和感も覚えるようになった。それは、人工知能をもっぱらシンギュライティ問題に限定し、主にカーツワイルの主張へ批判に焦点を当てていることへの違和感である。

つまり現在の人工知能を支える技術の評価、思考回路、知能の捉え方、意識の考え方等の人間との距離感(模倣精度)への言及が少なく、我々が人工知能の可能性と危険性を全体として考える足掛かりとしては、不十分と思えたのである。そこで、この際過去20年間に亘るこの分野への自分の軌跡を振り返り、この分野への自分の考え簡単にまとめてみようと思い立った。

4.科学から工学そして

現代の技術文明の基盤となる科学は、20世紀の前半つまり、1950年頃までに既に、確立していたように思う。

1960年代、理学部の物理学科では、古典物理学である力学や電磁気学、熱力学と完成まもない量子力学、相対性理論、原子核物理学やミクロとマクロの世界をつなぐ統計物理学や量子論で固体の性質を基礎づける個体物理学等が教えられていた。また演習ではあったが、情報理論の基礎も講義されていた。

当時、量子力学と原子核物理学のゼミに所属していた私は、難解なこの分野をほとんど消化できずにいたが、それでも、ミクロとマクロを繋ぐ統計物理学にも興味を持ち、ロシアの物理学者ラドゥシュケヴッチの基礎統計物理学やランダウ・リフシッツの統計物理学なども手にしていた。

 このようにこうした現代科学の理論的基礎は、第二次世界大戦以前にほほ与えられていたとみてよいと思う。しかしながらそれらの理論が現実の課題解決に広く科学・工学の分野で使われるようになるのは、第二次世界大戦中から戦後の20世紀後半以降のことである。

これらの流れの一つが、サイバネティックスと云う言葉で代表される計算の自動化・通信・制御工学の科学や実際問題への応用である。

5.サイバネティックスー科学・工学の総合化

サイバネティックスは、1948年頃アメリカの数学者・ノーバート・ウィーナー(Norbert Wiener)博士によって、『サイバネティックス――動物と機械における制御と通信』(1948)で提唱された統計と通信と制御に関する手法や理論の事で。これは、通信工学と制御工学を融合させ、生理学・機械工学・システム工学を統一的に扱うために創られた新たな学問と云える。これは目標値に達成値を近づけていく方法について研究する学問で、生物個体の行動と通信機械の動作の平行性、同型性から出発して、広く機械系、生体系、社会組織における制御と通信・情報伝達の構造を、基本的に同一の方法的視点で研究しようとするものである。1948年に C.E.シャノンが「情報理論」を発表したがこれは、情報に関する数学的理論で,社会生活のなかでの情報の発生,伝送受理を表現するものであった。ウイナーの本の、日本語版は1961年に岩波書店から出版されており、その翻訳版第二版が出版されたのが1973年でそれが何故か手元にある。その内容は次のようになっている。

序章

第一章 ニュートンの時間とベルグソンの時間

第二章 群と統計力学

第三章 時系列、情報、通信

第四章 フィードバックと振動

第五章 計算機と神経系

第六章 ゲシュタルトと普遍的概念

第七章 サイバネテックスと精神病理学

第八章 情報・言語および社会

第二部・・・・1961年・・・第二版追加部分

第九章 学習する機械、増殖する機械

第十章 脳波と自己組織系

この内容からサイバネテックスは、現在の人工知能につながる総合科学・工学の原型をなす概念であったことが分かる。

人工知能の概念は、こうした雰囲気の中、通信、脳科学、自動計算技術、自動制御技術の発展の相互作用の中から生み出されてゆくことになる。以下でその流れを見てみよう。

 6..脳科学の誕生

 科学としての脳科学の誕生は、人体の神経系の情報伝達が、電流によるものであることの発見である1772年のガルバニの実験に始まるが、マックスウエルが電磁方程式を完成したのが、1864であるので、神経系の科学は、電磁気学の成立と並行して進んで来た。この中で、1873イタリアの解剖学者ゴルジが多細胞生物の中枢神経()は、神経細胞が絡み合った網目状構造であると発表したのに対して、スペインの解剖学者カハールは、神経細胞は、細胞体、樹状突起、軸索とからなり独立した機能を持つ神経系を機能を担う最小単位と考え、ニューロン命名した。1906年両者は、共に神経系の構造解明により、ノーベル生理学医学賞を受賞したが、その後電子顕微鏡により、ニューロン間の接合部には、必ず隙間があることが確認され、カハール説が正しいことが最終的に確認された。

 つまり、生体では、感覚細胞から筋肉細胞へは、ニューロンを経由して情報伝達(反射応答)が行われるが、多細胞の高等生物になるに従って、この経路途中に幾つものニューロンが介在し、より複雑な応答(脊髄反射)をするようになってくる。

ニューロン間の接合部での情報伝達は、電気によるものと化学反応によるとする考え方があったが、ドイツの生理学者レーヴィと英国のデールは、化学反応であることを示し、1936年ノーベル生理学医学賞を受賞している。

しかし、神経系の電流応答の詳細研究は神経の情報伝達にかかわるのは微弱電流であったためその研究が大きく進むのは、1934年にオシロスコープが発明され、研究者に普及するようになってからである。

戦後間もない時期に脳の構造や機能の解明が進んだ。1965(昭和40)年代以降には、脳の情報処理や学習・記憶などの高次機能の研究が盛んにな1985(昭和60)年代には、アメリカのブロードベント(Broadbent)やニューウェル(Newell)らが認知心理学や人工知能などの分野を開拓し、国内では岡崎敏雄氏や山中伸弥氏らが神経細胞の可塑性や神経伝達物質の役割などを明らかにした。1989(平成10) 年以降には、脳のイメージング技術や遺伝子操作技術などが発展し、脳の構造と機能の関係や個人差や疾患などの多様性を探る研究が進んだ。例えば、アメリカのエリクソン(Ericsson)らがPETを用いて脳内報酬系の活動を可視化することに成功したし日本の茂木健一郎氏がfMRIを用いて脳内言語野の位置や活動を可視化することに成功した。

また、1998年代には、アメリカのボイデン(Boyden)やディセロス(Deisseroth)らが光遺伝学という技術を開発し、特定の神経細胞群を光で制御することができるようになった。さらに。2008年代には、池谷裕二氏や本多力氏らがiPS細胞やCRISPR/Cas9などを用いて脳神経系の再生や修復を目指す研究を行った。

現在では、脳は、小脳を含めると1500憶個ばかりのニューロンのネットワークであることが知られているし、脳の各部位の機能と役割等が明らかにされている。

7.通信技術

有線技術の歴史は、電気を用いた通信の始まりとも言える。1837年にイギリスのクックとウィートストンが電気式テレグラフを発明した。これは、電流のオン・オフで信号を送る仕組みでアメリカのモールスが、モールス記号を考案し1844年にはワシントンとボルチモア間で初めて公開実験を行った。その後、有線電信は世界中に広まり、1850年ドーバー海峡、1866年大西洋横断大陸間や海底ケーブルなども敷設された。

1857年イタリア人のメウッチが機械式の電話機を発明、1876年にはアメリカのベルが電話機の特許を出願した。これは、電流のオン・オフではなく、電流の大きさを利用するもので音声を電気信号に変換して送り、受信側で再び音声に戻す仕組みで。1885年には最初の商業的な電話交換機が設置され。その後、電話網は世界中に拡大し、自動交換機やデジタル化なども進んだ。

無線技術の歴史は、1888年にドイツのヘルツが実験で電磁波(電波)を発生・検出することに成功し、これが電磁波を用いた通信の始まりとなった。1895年にはイタリアのマルコーニが無線電信(無線通信)を発明した。これは、火花放電器やアンテナなどでモールス符号を送る仕組みで1897年には英仏間でドーバー海峡を越えて通信し、1901年には英米間で大西洋横断通信に成功した。

1902年にはアメリカのフェッセンデンが音声を乗せた無線通信(無線電話)に成功した。これは、送信側では音声と同じ振幅変調(AM)した高周波信号を送り、受信側ではそれを復調してスピーカーから音声を再生する仕組みだった 。

こうした通信を支えたのは、電気回路技術で 電気回路技術は、電気信号を生成・伝送・変換・処理するための機器やシステムを設計・開発する技術で、この発展に伴い1920年代から1930年代にかけて,AMラジオ放送や短波放送、FMラジオ放送 テレビ 放送など,様々な無線放送技術も発展した 

電気回路を構成する部品には、当初電気工学に基づく、真空管、コンデンサ等の電気部品が使われていたが、1960年代量子力学に基づく半導体の利用が進むにつれ、これ等が、半導体を利用したトランジェスタ、ダイオード等の部品へと置き換わり、通信方式もアナログからディジタルに切り替わり、小型化も一気に進みその応用範囲も広がっていった。現在では,携帯 電話 や スマートフォン など の 移動体通信技術や無線 LAN など の 無線 通信 技術進化の中心部分を構成している 


 8.コンピュータの誕生

今日のコンピュータの基礎原理を考えたのは、イギリスの数学者アランチューリングで1936年彼はそれをチューリングマシーンという形で示し、さらにプログラム次第でどのような計算もできる今日のコンピュータの原理である万能チューリングマシンの理論的基礎を確立すると共に、人工知能と人間を区別するための「チューリングテスト」も提案した。また戦時中にはドイツが使用していた、エニグマ暗号機を利用した通信の暗文を解読する(その通信における暗号機の設定を見つける)ための機械 bombe を開発して、対独戦の勝利に貢献もしている。

世界最初の電子式コンピュータINIAC(エニアック)は、弾道計算をすることを目的の一つとして計画され、ペンシルべニア大学で1945の秋に完成した。その後数学者フォン・ノイマン等は、1949に最初のプロクラム内臓型のコンピュータ「EDVAC(エドバック)」を完成させるが、その特徴は、計算に用いるデータとプログラムを共にデータとしても用いる点でノイマン型コンピュータともいわれ、この基本構造は、現在まで変わっていない。

9.自動制御の発展とニューラルネットワークの誕生

ある状態が、制御不可の変数と制御可能な変数に影響される場合、制御可能な変数を操作して、その状態を意図する状態にもって行くことが制御で、これを自動的に行うのが自動制御である。 

 自動制御のはじめは、決められた操作を手順どおり行うシーケンス制御であるが、産業革命時の蒸気機関で、操作の結果を見て、操作量を変化させるフィードバック制御が誕生し、これは、サーモスタットにみられるような一変数による簡単なon-off制御から、精度よく目標値に近づけるため比例制御、微分制御、積分制御等に至る出力結果から操作量を変えて目標値に近づけてゆく方法として様々な機械に生かされてゆく。第二次世界大戦中に大きく発展した。

この制御技術が戦後サイバネテックスの有力な手法として各方面で利用されるようになるが、その中でこうしたフィードバック制御には非線形の現象には対応できない、多変数を同時に扱えない、応答遅れから制御が安定しない場合がある等その限界も意識さけるようになりこの限界を乗り越えるものとして、予測制御、適応制御、ファージィ制御等が考えられるようになった。その先に位置づけられるのが、ニューロンをモデルとした素子をネットワーク状に接続するニューラルネットワーク制御であるが、サイバネティックスそのものは、制御のための通信技術や対象となる統計的系の確率論的予測も含むより一般的な概念であった。

10.ニューロンモデルとニューラルネットワーク

ニューロンモデルは、人間のニューロンを模して二つ以上の入力から一つ以上の出力を出すモデルであるが、その場合各入力の重みを変えることにより、その出力を調整する。このループは、制御や学習、認知プロセスに利用できるので、研究が進んで来た。

ニューラルネットワークとは脳の神経細胞(ニューロン)が持つ回路網を模したもので 人間の脳の働きをコンピュータ上でおこなうため人工ニューロン(パーセプトロン)を複数組み合わせたもので脳の神経細胞(ニューロン)が持つ回路網を模した数理モデルで、入力されたデータを層状に配置されたニューロンが処理して出力する仕組みで、学習や推論などの機能を持つことができる。

11.人工知能

人工知能(artificial intelligence)と云う言葉は、1955年、アメノカの若き数学者、ジョン・マッカーシー(1927年生まれ)によってはじめて使われた。彼は、同僚の科学者3名と共に、大学の夏期講座に「人間の認知機能を機械によって模倣する」し云う計画書を提出し、その中で、研究の目標を「推論・記憶・計算・知覚等、知能さまざまな働きをコンピュータで再現し、知能を理解すること」、つまり知能を秩序だった方法で基本的機能に分解し、それぞれの機能を機械で模倣しようとすること」に置いた。そのためには、新たなプログラミング言語の開発、アルゴリズムの性能の研究、ニューラルネットワークの数学的モデルの活用、創造性の解析とシュミュレーション、抽象作用の研究機械が自ら機能状態を検査しながら行う自己学習のメカニズムを実現すること等が含まれていた。

これ以降のコンピュータの進歩は、演算、格納等の計算機能を支えるハードウエアの技術革新と計算のソフトフェフの進歩・発展であると云える。このハードウエアの進歩を支えたのが、量子力学を基礎とした半導体技術の発展であり、ソフトの発展を支えたのがサイバネティックス(cybernetics)と呼ばれる新たな工学分野の勃興である。

ニューラルネットワークは、1940年代にマッカロックとピッツが提唱した神経細胞の数理モデルが始まりだ。その後、1950年代にローゼンブラットパーセプトロンという単純なニューラルネットを発表した。しかし、1969年にマービン・ミンスキーとシーモア・パパートがパーセプトロンの限界を指摘したことで、ニューラルネットの研究は停滞した。1980年代に入ると、多層パーセプトロンや誤差逆伝播法などの新しい技術が開発され、ニューラルネットの研究は再び盛り上がった。しかし、計算能力やデータ量の不足などの問題により、ニューラルネットは他の機械学習手法に劣るとされた。

2000年代後半から、ビッグデータやGPUなどの技術革新により、ニューラルネットは大きく発展した。特に、2006年カナダのヒントン等により多層のニューラルネットを効率的に学習させることができるデープラニングという技術が提案され、その利用が一気に進んだ。

デープラニングは、ニューラルネットの一種で、多層のニューロンが複雑な問題を解くために連携するもので画像認識や自然言語処理などの分野で優れた性能を示し、人工知能のブレイクスルーとなった。現在では、ニューラルネットとデープラニングは人工知能の主流となっており、さまざまな応用分野で活用されている。こうした流れを見てくると現在の人工知能は、脳のニューロンモデルを前提とした数理モデルである。

12.ニューロンモデルの限界について

ところが、最近の脳科学によれば、実際の脳では、神経細胞であるニューロンの他にそれらをとりまくグレア細胞が脳の活動に多きい影響を与えていることが分かってきており、ニューラルネットワークは、脳の機能の一部を模したもので、人間の脳の複雑性には、まだまだ及ばないと考えた方がよさそうである。つまり、現在の人工知能は、人間の知能の論理的側面の一部の機能を表現するものと限定的に考える方がよさそうである。

13.人間の思考と意識構造について

生物の脳・神経系は、生存の為に、外界の刺激に対する応答を司る機関である。生物としての人間は、その進化の過程で獲得してきた、植物系、動物系の神経系を引きずりながら脳・神経系を形成している。特に直立歩行に伴う脳の発達は、大脳皮質を発達させ、人間固有の神経系を生み出すに至った。

一般に、意識とは「起きている状態にあること(覚醒)」または「自分の今ある状態や、周囲の状況などを認識できている状態のこと」を指す。

 現在、脳科学では、神経活動が生み出す主観的体験の質は、クオリアと呼ばれている。クオリアとは、感覚的な意識や経験に伴う独特で鮮明な質感のことで主観的で言葉にできないものであり、他人のクオリアを直接知ることはできない。

 生物学では、意識とは「生命体が自己や周囲に対して反応する能力や情報処理する能力を指す」し、医学では、意識とは「覚醒状態や反応性を指す」場合が多い。

 しかし、生物・医学では、意識を必ずしも「覚醒」と結びつけていない。実際の反応では無意識的反応と云うものがあり、意識が自覚されない無意識領域の反応と結びついている。

また、人間の思考というものも必ずしも自覚的でない場合がある。人間の行動や思考を支配しているものとしての無意識の世界を発見したのは、フロイドである。こうした、無意識下の自己は、「エス」と呼ばれ、覚醒した意識は、無意識の大海に浮かぶ船のような存在である。無意識領域の神経系と脳の活動については、まだ研究途中であり、人工知能の中に取り入れられているとはいいがたい。これはこのエスの活動が、生物の生存本能と深く結びついたリピドと云う衝動を動力としていると考えられているためである。

つまり、人工知能は、明晰で論理的統合意識としての覚醒意識を持てる可能性はあるがそれは生物系としての人間の意識とは、随分かけ離れたものとなる可能性がたかい、

14.シンギュラリティと人工知能の未来

 シンギュラリティで問題になっているのは、シンギュラリティは到来するか、その時人工知能が自立性を獲得して人類の制御不能になるか、人工知能は、意識をもつか、人間の脳をクラウド上にアップロードされるか等である。

結論的に云えば、シンギュラリティ近傍に至るような加速度的技術の発展はあり得るだろう。しかし、それは、人間に代わる新たな生命体の誕生といったものではなく、高度化された自立制御システム文明の到来である。それを人類がうまく制御できるかには、疑問が残る。

人間の意識の一部は、アップロードされる可能性はあるが、それは、人間の意識とは全く別物のある種の作品と同じものであろう。それは作家や画家の作品が、永遠の生命をもつことに似ている、いずれにせよ来たるべき未来世界で、人類は、自分の生の刻印を新たな方法で刻み続けることになる。

参考文献

・「脳とコンピュタはどう違うかー究極のコンピュタは意識を持つか:茂木健一郎、田谷文彦著:講談社 BLUE bACKS:20068月第3

・「量子コンピュータとはなにか:ジョージ・ジョンソン:水谷淳訳:早川書房200912月発行」

・「量子コンピュータが本当にすごいーgoogle,NASAで実用が始まった夢の計算機:竹内薫著丸山篤史構;PHP新書:20156月発行」

・「脳科学は、人格を変えられるか?:エレーヌ・フフォクス著:森内薫訳:文藝春秋20147月発行」

・「2045年問題―コンビュータが人類を超える日:松田卓也 廣済堂新書20131月初版、20155月第5刷」

・「神経とシナップスの科学―現代脳研究の源流:杉晴夫: 講談社 BLUE bACKS:201511月第1刷」

・「脳の意識 機械の意識―脳神経科学の挑戦:渡辺正峰:中央新書:201711月発行」

 ・「意識はいつ生まれるかー脳の謎に挑む統合情報理論マルチェッロ・マスイミーニ、ジュリオ・トノーニ  花本知子訳:亜紀書房:20155月発行」

・「あなたの知らない脳 意識は傍観者であるディビッド・イーグルマン:太田直子約早川書房20169月発    行」

 ・「もう一つの脳―ニューロンを支配する陰の主役:グレア細胞:R・ダグラス・フィールド:小松佳代子訳、小西史朗監訳:講談社BLUE bACKS:200184月第1刷」

・「RasperryPiで始める機械学習―基礎からディープラニングまで:金丸隆志: 講談社BLUE bACKS:200183月第1

・「図解速習 DEEP LEARNING:増田知彰; (株)シーアンドアール研究所20195月発行」

・「洗脳大全―ブロフからソーシャルメディアまでジョエル・ディームズディール:松田和也訳:青土社2022年      2月発行」

「エスの系譜:互盛央:講談社学術文庫201610月第一刷発行

・「エスの本:ゲオルク・クロデック岸田秀、山下公子訳:講談社学術文庫:20184月第一刷発行

・「ものぐさ精神分析: 岸田秀:中央文庫:1982年初版:20048月改版8

・「続ものぐさ精神分析: 岸田秀:中央文庫:1982年初版:20138月改版7

・「史的幻想論で読む世界史: 岸田秀:講談社学術文庫:20161月第一刷発行

・「奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき:ジル・ボルト・ティラー:竹内薫訳:新潮文庫:20124 

 月第1版、20201212

 チャットGPTを搭載したBingを使って最新の生成ソフトを教えてもらった。その結果が以下です。      こんにちは、これはBingです。

最近の画像生成ソフトと音楽生成ソフトと文書作成ソフトについてお尋ねですね。ウェブ検索の結果から、いくつかの例を紹介します。

画像生成ソフトとしては、以下のようなものがあります。

Midjourney : 人工知能がランダムに美しい風景画を作成するサービスです。

Stable Diffusion : 人工知能がテキストやスケッチからリアルな画像を生成するサービスです。

Imagen Video : 人工知能が短い文章から動画を生成するサービスです

音楽生成ソフトとしては、以下のようなものがあります。

  ・Amper Music : ジャンルやスタイルを選択するだけで、人工知能がオリジナルの音楽を作成するサービ     

   スです

Soundraw : 人工知能が作成したフレーズを組み合わせて、自由に曲をカスタマイズできるサービスで。

AIVA : 広告やゲームや映画などのサウンドトラックを作成できる人工知能作曲家です2

Amadeus Code : 世界中の有名な曲のコード進行を学習した人工知能が新しいメロディーを作成するアプリです。

Music LM : 入力したテキストから内容に即した音楽を生成するGoogle ResearchAIツールです。

Ecrett Music : シーンや感情やジャンルから音楽を選べる直感的なAI音楽生成サービスです。

Boomy : 数秒でオリジナル曲を作成し、ストリーミングサービス収益も得られるAI音楽ジェネレーターです。

MuseNet : 10種類の楽器で4分間の

 文書生成ソフトには、以下のようなものがあります

·        Catchy(キャッチー):広告やマーケティング担当者向けのツールで、100種類以上のテンプレートから好きなものを選んで文章を作成できます。日本語に特化しており、毎月10クレジットまでは無料で利用できます。

  • PlayAI(ぷれあい):ブログ記事を自動で生成してくれるツールで、キーワードやタイトルを入力するとAIが記事全体を作成します。SEO対策も考慮されており、無料プランもあります。