2016年12月の古書展で「怪僧 ラスプーチン」という名の文庫本を見つけた。
458頁もの装丁のしっかりした本を3冊100円にコーナーで見つけて購入した。この本は
マッシモ・グリッランディ 米川良夫訳 中公文庫1989年12月発行となっている。
ラスプーチンは、ロシア革命の直前のロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ二世とその王妃アレクサンドラに気に入られ、暗殺された日本の道鏡にも似た怪僧である。この本は、その生涯を描いた伝記的物語である。
作者は、イタリア生まれ(1931~1987)の詩人・作家マッシモ・グリランディ、日本で出版された本に「マタハリ」がある。私の関心は、二つである。その一つは、この作品がロシア革命前の状況を体制側から描いていることと、キリスト教の僧侶を扱っていることである。その物語は、ラスプーチンが毒殺される直前の状況からはじまり、そこから遡りそこに至る経緯をおって物語が展開される。何故僧侶が政治に関係していったか、その怪僧を生み出した背景には、何があったのかその興味に魅かれて一気に読み進んだ。
そして徐々に明らかにされたのが、彼が霊的キリスト教の一派である鞭身派の僧侶となったことと関係しているということであった。霊的キリスト教は、17世紀のロシア中央部の諸県で、組織的ではない神秘主義的かつ終末論的な大衆性を持つ運動を基盤として誕生した。
鞭身派は、この流れから生まれた一派で、この流れから生まれた別の分派には、ツァーによって弾圧され、カナダへの移住を余儀なくなれたドゥホボール派がある。このドゥホボール派をトルストイが援助したことを初めて聞いたのは、数年前カナダのネルソンの街に住む女性の知人からで、ネルソンの街には、このドゥホボール派とトルストイの関係を調べている研究者がいるとのことであった。残念ながら当時の私は、霊的キリスト教に関する知識が全くなかったため、それ以上の興味に繋がらなかった。
物語の中で、鞭身派の教義や活動をしるに及んで、この考え方が、生を肯定する理趣経の教義とそこから生まれた立川流の教えと極めて類似しているように思えた。理趣経は、密教の生の肯定の思想を男女の性の肯定まで広げたもので、煩悩即菩提、淫欲即是道の思想である。日本における立川流は、12世紀後三条天皇の時代に仁観がその100年後の南北朝の後醍醐天皇の時代に文観という立川流の僧侶が政界に影響を与えた記録がある。
このことを知ったのは、やはり古書展で、「悟りの秘密 理趣経 金岡秀友」筑摩書房
現代の仏教9昭和40年8月出版を見つけてその中に立川流に関する記述を見つけたことによる。
従来ラスプーチンは、怪物のように見なされてきたが、彼が性の宗教を奉じていたとするならば、文盲の農民が圧倒的多数を占める18世紀のロシアの思想状況を考えるならばその行動や伝説も合理的に理解できるように思われる。それにしても、正月に訪れた高1の孫娘が、ラスプーチンのことを知っており、彼が致死量の何倍もの毒を飲みながらなかなか死ななかったというエピソードを知っていたのは驚きである。彼女は、どこでその話をしったのであろうか。このことの方が気にかかる。