一年程前から人工知能に興味を抱いてその開発の現状を調べいたが、問題意識を持っていると思わぬことが起こるものである。古書展で偶然出会ったのがジェイムズ・パトリック・ホーガン(James Patrick Hogan:J・P・ホーガン:英国ロンドン生: 1941年 -~2010年) の「未来の二つの顔」で僕は、これを一冊100円で購入した。J・P・ホーガンは、数年前劇画された「星を継ぐ者」「ガニメデの優しい巨人」等の作品で有名なSF作家である。僕が入手したのは、創元文庫出版の1983年初版の1985年の山高昭訳第5刷版であった。
「未来の二つの顔」は、人工知能の問題をテーマとして1979年に発表された作品であるので何かの参考になると思わず購入した古本であるが、驚くことにこの作品は、最近広く話題になってきた人工知能(AI)の問題を的確に取り扱っている作品でその先見性に舌をまいた。この作品は、今から37年前にそれから約50年後の2028年の世界を想定して書かれており、我々は、彼が問題にした課題が極めて現実味をもって迫ってきている時代に生きていることになる。このSFでのテーマは、「人工知能は、自らの意思を持つのか、人間に敵対するのか」であり、その問題意識があまりにリアリティを持つ背景には、かれが当時MITの人工知能研究班主任のマービン・ミンスキー教授の助力と助言を受けたことにあるようなのである。これは、この本の冒頭に謝辞が捧げられていることからもわかる。
物語は、人工知能が、人類に敵対するか否かを検証するために、地球周回軌道上に設置された宇宙植民地(ヤヌス)に生存意思を持つ最先端の人工知能(スバルタカス)を搭載し、人間が作為的にこの宇宙植民地の破壊工作を行った場合、人工知能はどう反応するのかを検証するプロジェクトの立案から結果を扱った話であった。ここには、人工知能の開発責任者、宇宙植民地の管理責任者、人工知能に対決するための5000人の部隊を統括する将軍等が登場する。この古本には、前の持ち主の購入と感想が書き込まれていた。前の持ち主がこの本を購入した動機「Prof 上田に刺激されて 10/x 85」と最初のページにあり、最後のページに「10/x~13/x 85 4日間で一気に読了」とあり、その感想が以下のように記されていた。「P300以降のスリル感はexcited 一気に読まされる。前半は、伏線、前提知識の提供。SFとはものすごい知的創造物です。単なる娯楽と云えばそれまでですが・・・。読後感はさわやか大満足でした。」
今読んでみるとSFとは未来洞察の知的娯楽物のように思える。人工知能を考える場合の基礎知識としたい一冊と云える。